第3回ブラインドサッカーアジア選手権のキックオフまで、およそ100日。寒気に包まれたアミノバイタルフィールドで、ダウンジャケットを着込んで取材する自分の姿が、実感を伴って想像できる季節になった(音声読み上げ機能をお使いの方々に念のため申し上げておくと、「寒気」は「さむけ」じゃなくて「かんき」です)。日本代表の最終ベンチ入りメンバーも発表され、緊張感が高まっている。12月の「寒気」が「歓喜」に変わることを願わずにはいられない。
で、現在の代表チームはどんな感じなのか。どこまでレベルアップしているのか。イケそうなのか。どうなんだそのへんのことは……と、ヤキモキしているファンも多いと思う。だが心配は無用だ。少なくとも私の見るかぎり、夏を終えた時点での仕上がり具合は、きわめて良好である。魅力的なチームが育ちつつあることは間違いない。
2年前の同じ時期(第2回アジア選手権の100日ほど前)、日本代表は強豪スペインを下すという偉業を成し遂げた。成長は、確実にしていたのだ。それでもアジア4位に終わってしまった理由は、ただひとつ。「点が取れなかったこと」にほかならない。スペインを2試合続けて完封し、翌年のパラリンピックで銀メダルを獲得した中国にもゴールを与えないほど高い守備力がありながら、点が取れないがゆえに、日本は負けた。これをどうにかしなければ、今回も勝てない。すべての代表関係者が、2年間そればかり考えてきたはずだ。
そして選手たちは、その課題を克服しつつある。8月の八王子合宿で行われた練習試合(相手はたまハッサーズとT.Wingsの連合軍)は、5-0と大量点で圧勝。敵は代表選手抜きとはいえ、アブディンという国内最高レベルの厄介なストライカーがいたのだから、決して弱い相手ではない。しかも代表選手たちは、猛暑の中で過酷なサーキット・トレーニングをやった直後のナイトゲームだった。それを考え合わせれば、実に頼もしい結果である。さらに翌日の紅白戦も、黒田、佐々木、加藤のアタッカー陣がゴールを決め、2-1という見応えのあるゲームになった。2年前の紅白戦はスコアレスで終わることが多く、風祭監督がいつも首をひねって不満そうな顔をしていた記憶がある。しかし今回、試合後の監督は、とても柔和な表情だった。
では、2年前と何が変わったのか。もちろん、ドリブル、一対一での体の使い方、シュート力など、選手たちの技量が上がったことは言うまでもない。厳しいトレーニングで、フィジカルも見違えるほど強くなった。だが、それだけではない。チーム戦術も2年前とは変わっている。基本システムが「1-1-2」から「1-2-1」に変更されたのだ(ちなみにこれはDF-MF-FWの人数を示す数字です)。
詳しくは拙著『闇の中の翼たち』(幻冬舎)をお読みいただきたいが、B1日本代表のシステムは、当初の「2-2」から「1-2-1」(05年~06年)、「1-1-2」(07年)と変遷した。その流れを考えると今回の変更は「逆行」にも見えるが、そうではない。かつての「1-2-1」と今回の「1-2-1」は似て非なるものだ。
以前の「1-2-1」は、基本的に「2人で攻撃する」を前提にしたシステムだった。1トップにボールを預け、MFの1人が上がってそれをフォローし、もう1人のMFは敵のカウンターに備えて自陣で待機する。それを「3人で攻撃する」に変えたのが、07年の「1-1-2」だ。点を取るための攻撃的な布陣だが、これは2トップにかかる負担が大きい。守備時には両サイドのトップも自陣に戻るので、運動量がべらぼうに多くなる。また、敵に攻め込まれると4人とも守備に戻ってしまい、ボールを奪ってからカウンターができないという問題点もあった。
そこで導入されたのが、「3人で攻撃する」を前提にした「新型1-2-1」だ。攻撃時に3人が上がるのは「1-1-2」と同じだが、トップの位置に入る選手は1人なので、2トップよりもスペースを広く使って自由に動くことができる。また、1トップの選手を固定した以前の「1-2-1」と違い、今回は前線の3人が頻繁にポジション・チェンジを行うことになるだろう。それによって、選手たちの運動量が均等化するわけだ。さらに、DFの選手も状況によっては積極的に攻撃参加する。やや専門的な話になってしまったので意味がわからない人もいると思うが、要は「どこからでも点の取れるチーム」を目指す、きわめて志の高い戦術なのである。
事実、八王子合宿の練習試合では、DFに入った落合や田中が自陣からドリブルで攻め上がり、見事なゴールを決めた。サッカーファンにとっては、見ていて胸が躍るようなシーンだ。ブラジルやアルゼンチンの試合でさえ、私はそんなプレイを見たことがない。1人か2人のアタッカーに攻撃を任せるのが、現在の世界の主流なのだ。日本がこの戦術で好結果を残せば、ブラインドサッカーという競技自体に新風を送り込むことになるだろう。
より「サッカー」へ肉迫するためのチャレンジ――常にこの姿勢を失わないことが、私が彼らを応援する最大の理由である。あと100日で、このチームが「新型1-2-1」をどこまで洗練されられるのか。ほんとうに、ワクワクする。(2009/09/07)
プロフィール
岡田仁志(おかだ・ひとし) 昭和39(1964)年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。深川峻太郎の筆名でもエッセイやコラムを執筆し、著書に 『キャプテン翼勝利学』(集英社インターナショナル)がある。3年前からブラインドサッカーを取材し、今年6月、『闇の中の翼たち ブラインドサッカー日 本代表の苦闘』(幻冬舎)を上梓。














