ブラサカJAPAN、10年目の本気。
in The 5th IBSA World Blind Football Championship 2010
文と写真/岡田仁志
現地時間 2010年8月19日(木)9時40分
◇フランス 1-1 中国
寝坊のせいでキックオフに5分ほど遅刻。すでに中国が1点を先制していた。スタンドにいた井口さんに聞くと、11番Ya Feng WangがきれいにDFを抜いて決めたとのこと。前回大会以降、全試合の全ゴールを見てきたので、初のゴール見逃しがちょっと悔しい。今大会はあまり早い時間帯に点が入っていないのになぁ。フランスは北京パラリンピックに出場しておらず、したがって中国とは初対戦なので、あのドリブルにはすぐに対応できなかったのかもしれない。4年前、初めてブラジルのリカルドと対戦した後、黒田が「何が起きているのか、意味がわからなかった」と語っていたのを思い出す。
しかしフランスの順応は早かった。ドリブルで逃げ回る中国選手にすばやく体を寄せ、長い脚を伸ばしてボールを奪う。「脚が長いって得だよな」というのは、今大会全体を通じての感想。2年後のロンドンパラリンピックまでに、中国は大柄な選手を集めて育て上げるかもしれない。平均身長2メートルの中国チームが登場しても、私は驚かないと思う。
ともあれ中国はフランスの気迫あふれる守備にてこずって追加点を奪えない。そして前半の残り41秒、ヴィレルーが力強い中央突破で中国守備陣をなぎ倒し、右足でズドンと同点ゴール。後半も一進一退の展開で、グループBの2位を争う直接対決は白熱の好勝負となった。中国はフィニッシュにパワーがなく、フランスは2つあった第2PKを決められずにドロー。この過酷なグループをわずか1敗で乗り切ったフランスの活躍は、本当にすばらしい。
◇スペイン 2-0 日本
日本の先発メンバーは、三原、落合、山口、田中、GK佐藤。初戦のコロンビア戦で、スタート時のシステムは「1-2-1」か「2-1-1」か――という話をしたが、後者を選択した場合の布陣がこれである。運動量の多い前線の3人(黒田、佐々木、加藤)を休ませて序盤をしのぎ、途中からギアチェンジして敵のペースを惑わせる作戦だ。2人のDFを動かすのでGKに負担のかかる形だが、佐藤は冷静に的確な指示を出し、選手たちもスムーズにポジションチェンジをしながら、スペインの攻撃を潰していた。前半7分には、三原との交代で20歳の寺西が国際試合デビュー。スペインのFKでボールの前に立った寺西の最初のプレーは、このサッカーでは滅多にお目にかかれない「ヘディング」だった。相手の浮かせたボールが頭を直撃したのである(顔面だったかもしれない)。いいぞハジ君!
がっちりと守備を固める序盤の日本チーム。
前半9分、攻守に奮闘していた落合が足を痛めて佐々木と交代。5分後には寺西に代えて加藤を投入。さらにタイムアウトを取って、日本は山口と黒田を入れ替えた。ギアチェンジ完了。
「ここからガラッと気持ちを切り替えろ! 点取りに行くぞ!」
コーラー魚住の大声が選手を鼓舞する。再開後、いきなりスペインを押し込んでコーナーキックを得た日本の攻撃に、期待感が高まった。一方のスペインも7番マルティン、10番チャッピィを投入して本気モードに。それでも日本は互角以上の攻防を展開し、前半の残り2秒で第2PKをゲット。残念ながら加藤のキックはGKの正面を突ついて前半を0-0で折り返したものの、勇気と自信を持って後半を迎えられる試合展開となった。
チャッピィと競り合う佐々木。
後半は開始早々、センターライン手前にいた佐々木に指示を出したコーラー魚住が「エリア外ガイド」のファウル(コーラーが指示を出せるのはピッチの1/3の範囲まで)。注意なしでいきなり笛を吹くのは厳しすぎると思ったが、どうやら前半にオフィシャル席から日本ベンチに注意があったらしい。日本ベンチはこれを「GKへの注意」と理解したため(GKが指示を出せる範囲もピッチの1/3)、魚住には注意喚起をしていなかった。無駄なファウルをひとつ重ねてしまったことになる。
後半3分、日本がビッグチャンスを作った。左コーナーキック。魚住が「浮かせよう」と指示を出す。スペインがボールを包囲する陣形で守るため、バックパスをからめるいつものオプションは使えない。試合前、ボールを蹴る佐々木と加藤には魚住から「浮かせられるか?」という確認があったそうだが、逆サイドで待つ黒田にとっては「初耳」のオプションだったそうだ。だが、それでもしっかり反応できるのが黒田である。佐々木がDFの頭上に蹴り上げ、ペナルティエリア内右45度でバウンドしたボールに、黒田は猛然と飛び込んだ。左膝の下で、ダイレクトボレー。ふわりと浮いたシュートがGKの頭上を襲う。決まれば「レジェンド確定」のプレーだった。しかし無情にも、ボールはクロスバーをわずかに越える。日本のエースがブラインドサッカー史に名を残し損ねた瞬間だった。
その5分後、スペインが左コーナーキックを得た。7番マルティンがドリブルでペナルティエリアに侵入する。そのドリブルコースは、GK佐藤が事前に把握し、田中や黒田に教えていたものだった。「2人のあいだをすり抜けてくるから気をつけろ」――。だが、わかっていても止められなかった。「大きな体をうまく使って、こっちを押さえつけながら強引に割り込んでくるんです」と黒田が言う。田中と黒田を押しのけたマルティンが得意の右足を振ると、ボールは日本のゴールに飛び込んだ。1-0。しかし時間はまだ十分にある。
流れを大きく変えるチャンスは後半12分に訪れた。スペインGKがゴールエリア外でプレーし、日本のPK。距離は6メートル。たった2メートルの違いだが、第2PKよりも入る確率は格段に高い。これで追いつけば、逆転できるはずだ――私はそう念じながら、ゴール裏でカメラを構えた。しかし佐々木のトゥキックはゴールマウスをとらえられない。弾かれたボールはゴール裏の柵を越え、私の顔の横を通り過ぎていった。
もうひとつのビッグチャンスは、DF田中が作った。自陣でボールを奪うと、「アキ、自分で行ってまえ!」という風祭監督の声で敵陣に味方がいないことを察知し、果敢にドリブルで攻め上がる。迫力満点のドリブルで、あっという間に敵ゴール前へ。惜しくもシュートをジャストミートできなかったが、見ていて胸が躍るシーンだった。
勇猛果敢に攻め上がったDF田中。
残り5分をまわったあたりで、空から雨が落ちてきた。最後の反撃にかかる日本だが、濡れたピッチで思うようにボールがコントロールできない。大会初日に雨中戦を経験したスペインに、一日の長があった。残り2分50秒に、マルティンが第2PKを決めて2点差。準決勝進出を目指して最後までファイトした日本だが、この2点目は重すぎた。
試合終了後、ピッチから引き上げる魚住が、目を真っ赤に腫らして「すみません」と頭を下げた。ガイドファウルの責任を感じていたのかもしれない。無論、魚住ひとりの責任ではないが、ファウルがひとつ少なければ、敵の第2PKもひとつ減る。技術的には遜色のない戦いをしながら、どちらも第2PKで追加点を許したイングランドとスペインとの2試合は、われわれに大きな教訓を残したと言えるだろう。
これで日本の準決勝進出は断たれた。無念である。しかしこの大会は「グループ3位も5位も同じ」ではない。以前ツイッターにも書いたが、私は個人的に、ここで「世界の上半分」に入ることが重要だと考えている。それに、3位か4位に入れば、順位決定戦の相手はフランス、中国、アルゼンチンのいずれかだ。強豪国との真剣勝負を経験できれば、われわれにとって大きな財産となる。そのために、まずは韓国を粉砕しなければいけない。
◇コロンビア 3-1 韓国
前半15分に韓国が先制。ゴール正面8メートルのFKを、14番キムが左に持ち出してから左足で撃ち抜いた。しかし2分後、9番パブロのゴールで同点として以降は、おおむねコロンビアのペース。前半23分にもパブロが第2PKを決めて2-1。後半8分には、ペナルティエリアで倒されたパブロが自らPKを決める。アルゼンチンのヴェロに続いて、大会2人目のハットトリック。無理な体勢からでも長い脚を強引に伸ばして強烈なシュートを撃ちまくるパブロを見ていると、日本はよくコロンビアを無得点に抑えられたものだと改めて思う。
◇ブラジル 3-0 ギリシャ
少し主力を休ませるのではないかと予想されたブラジルだが、意外にも10番リカルド、9番ジョアン・シウバ、7番ジェファーソンの点取り屋トリオが全員先発。フィールドプレーヤー4人なのに「3トップ」なのだから、かなりえげつない。北岡さんは「昔のPL学園対東海大山形(29対7)みたいになるんじゃないスかね」と呟いた。私も、ブラジルが10点ぐらい取りそうな気がした。
ところが前半を0-0で折り返すのだから、サッカーはわからない。試合勘が戻ってきたせいなのか、夜間試合で涼しい(というか寒い)せいなのか、ギリシャは見違えるほど動きがよかった。4番のトカトリディスさん(なぜか「さん付け」にしたくなる風貌)も、ボールにつまづくことなく、リカルドを密着マークしてボールを奪ったりしている。私はギリシャをナメすぎていたのかもしれない。ブラジルもそうだ。3人が上がりっぱなしで守備をひとりに任せていたため、7番ザカロスに「あわや」というシュートを2本も浴びていた。「ヘレフォードの奇跡」が起こるのではないかと思うと、寒くてもスタンドを離れる気になれなかった。
ただしブラジルはこの試合で、新しい攻め方をいろいろと試していたフシもある。リカルドとジェファーソンのパス交換は、もう明日にでもワンツーリターンができそうなほど正確だった。リカルドは、簡単に流し込めば入りそうなシュートを、わざわざループにしてGKの頭上を抜こうとした。DFの背後を狙うループパスも多用。なかなかゴールは入らなかったが、見ていてワクワクするサッカーだった。
結局、後半10分にリカルドが大会初ゴールを決めてブラジルが先制。その後もリカルドとジョアン・シウバが1点ずつ決めた。しかしそれにしても、ギリシャは侮れない。いや、侮れるチームなど、この大会にはひとつもないのだということを実感させる一戦だった。
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