ブラサカJAPAN、10年目の本気。
in The 5th IBSA World Blind Football Championship 2010
文と写真/岡田仁志
現地時間 2010年8月18日(水)12時10分
イングランド戦翌日の朝である。昨夜は取材終了後、宿に戻る途中でCOOPに立ち寄り、調理せずにそのまま食える物とビール(ぬるい)を買い込んで、北岡さんとウエハラ君と私の男3人、狭い部屋でブツブツ言いながら飲んだ。22時にはほとんどの店が閉まってしまうので、4試合あると晩飯に苦労する。ぬるいビールの苦味は、それとは別の苦味を消してはくれなかった。まだ頭の中が苦い。今朝ウエハラ君に聞いたら、「岡田さん、ベッドに入るなり寝息立ててましたよ」とのこと。少々、疲れている。
◇フランス 2-0 ギリシャ
フランスにとっては、グループBで唯一の「格下」相手の一戦。過去2試合とは違い、1-1-2の布陣で志の高い攻撃サッカーを見せてくれた。7番マヤと8番ラバレのコンビネーションがいい。ドリブルでDFを引きつけ、走りながらフリーの味方にパスを通すプレーを見ていると、「ワンツーリターン」まであと一歩だと感じる。ただし前半でいちばん面白かったのは、13分にフランスの6番バロンが放ったシュート。ボールは大きくクロスバーを越えたのだが、正面スタンドから向かって左側のゴール裏には、選手団の宿泊施設がある。その1階の部屋の窓が開いていた。その小さな「枠」を完璧にとらえ、スペインチームの部屋にシュートを叩き込んだバロンには、0.5点を与えたいと思う。頭にタンコブをこしらえたカミナリさんが「コラーッ!」って怒鳴りながら出てきそうなシーンでした。
先制点は後半10分。ギリシャの強烈なFKを思いきり腹に食らった10番ヴィレルーが、痛がりながらも倒れることなく根性で前線にボールを運んでチャンスメイク。最後はバロンが、キャプテンから受け取った執念をゴールに叩き込んだ。後半22分の2点目はヴィレルー。ゴール前の混戦から放ったヒールショットはGKに阻まれたが、そのこぼれ球を振り向きざまにゲット。しぶとさがシャツを着て走っているような選手である。
◇スペイン 1-0 韓国
8割方スペインがボールを支配していたような印象だが、ゴールはなかなか生まれない。後半の残り5分で双方のファウルが3つになったときは、「第2PKの蹴り合いになったら韓国のうっちゃりもあり得る」と思った。PK職人の14番キム・キュンホは健在だ。しかしどちらも4つめのファウルは犯さず(キムも露骨にファウルをもらいに行くプレーを見せなかった)、残り1分20秒で7番マルティンの決勝ゴールが決まる。これでスペインは勝ち点9となり、準決勝進出が決定(だよな?)。日本戦の前にスペインがお気楽モードになったのは、われわれにとって、たぶん悪いことではない。
◇アルゼンチン 0-1 中国
序盤のアルゼンチンは凄まじい気迫を見せた。中国のドリブルを、センターライン付近でヴェロが猛チェイス。高い位置で左右にウロウロさせ、タテに入ってきたところでボールを奪いに行く。体格で劣る中国選手は、激しいチェックを受けてボールを失う場面が目立った。一方、攻撃面での中国対策は「浮き球」である。どこまでも密着してくる4枚ディフェンスをドリブルでかわすのは難しい。そこでアルゼンチンは「万里の長城」の頭上を狙った。ヴェロがループを蹴り、DFラインの裏のスペースにルカ・ロドリゲスが走り込む。確率の低いやり方だが、ロドリゲスの能力をもってすれば、何度もくり返すうちに決定機を作れそうに見えた。
ところが前半9分に、アルゼンチンが不運に見舞われる。ロドリゲスが足を痛めて退場。体の重い選手が多いアルゼンチンだけに、俊敏なロドリゲス抜きで中国のスピードに対抗するのは難しい。ヴェロがあまり長い時間プレーできないとあっては、なおさらだ。実際、それ以降は中国がペースを握った。前半の残り44秒、9番Zhou Bin Wangの豪快なゴールで中国が先制。後半、アルゼンチンは6本の第2PKを得たが、1本も決められなかった。ロドリゲスは最後まで戦線に復帰せず。大丈夫だろうか。
◇イングランド 2-0 日本
試合前の練習中にTwitterで「観客は七分の入り」とレポートしたが、それから続々と詰めかけ、スタンドはほぼ満員。その完全アウェイで、腹の底から大声で「君が代」を斉唱した選手たちの姿からは、気迫と落ち着きと自信が伝わってきた。キックオフ前には、木下ドクターが相手GKの足元を指さしながら、審判に激しい口調で抗議。あとで聞いたところ、ルールで禁じられているポイントつきスパイクを履いていたので、「あれでうちの選手が怪我をしたら訴えるぞ」と噛みついたそうだ。さすが、フットサル世界選手権に日本代表のドクターとして帯同した経験の持ち主だけのことはある。相手のスパイクに気づくだけでもすごいよ。じつに頼もしい。結局、キックオフを遅らせられないのでそのまま出場し、ハーフタイムに履き替えたとのこと。「審判は謝ってましたけどね」と、試合後も腹立たしげに語っていた木下ドクターでした。
「ホームの相手を乗らせたくないので、キックオフから15分は攻撃的に行くつもりです。日本の良さをみせつけて、まずは地元の観客を驚かせたい。できれば先に点を取ってスタンドを黙らせてから、少し守る時間帯を作って、前半の終盤にもう一度攻める。そんなイメージでやりますよ」――フランス×ギリシャ戦のキックオフ前のスタンドで、コーラーの魚住はそう語ってくれた。日本はそのゲームプランどおり、自分たちのペースで前半を進めたと言っていいだろう。少しも慌てたところがなく、声の連携もしっかり取れていた。黒田、佐々木、加藤が次々と敵ゴールに迫り、シュートを放つ。リズムは決して悪くなかった。プランと違ったのは、ゴールがないことだけだった。
前半16分、加藤&黒田アウト、落合&山口イン。この選手交代も、ベンチのプランどおりだ。このあたりで相手ベンチがエースの7番クラークを引っ込めることも、計算に入っていた。事実、イングランドは17分にクラークを下げ、9番グリビンを投入する。しばらくは、日本がうまく時間を使いながらまったりと試合を進めるはずだった。
序盤の好調さで油断が生じた、とは思いたくない。守りに入ったところにつけ込まれた、とも思いたくない。前半19分、イングランドのコーナーキックから始まった攻撃に対して、日本守備陣の連携に一瞬の綻びが生じたのは、魔が差したとしか思えなかった。……いや、正直に言おう。この守備的なフォーメーションは、やはり練習不足が否めないのだと私は思う。チームは昨年のアジア選手権を経て成熟度を高めているが、山口はその大会後に代表に復帰した選手だ。DFのキーマン田中と一緒にプレーするのは、今大会が初めて。グリビンのシュートは、その田中と山口の隙間を切り裂き、日本のゴールに飛び込んだのだった。前半は1-0。サッカーは、プランどおりには進まない。
前半をプレスエリアで過ごした私は、後半、日本が攻めるゴールの裏に陣取った。ハーフタイムを終えて位置についた魚住が振り向き、厳しい表情で「トモ(黒田)がトップです」と告げる。まずはチームの大黒柱に前線でスペースを与え、大いに暴れてもらおうということだろう。だが黒田は、再三にわたってゴールに迫り、地元観客を唸らせるものの、大柄な3枚のDFをかわしきれない。角度のない位置から無理な体勢でシュートを撃つシーンが目立つ。あまり良くないときの黒田の癖だ。その後、日本は再び佐々木と加藤を投入してボールを支配するが、ゴール裏から間近で見るイングランド守備陣は、スタンドから見下ろすより何倍も分厚く感じられた。
試合の終盤は、第2PKの蹴り合いになった。イングランドのキッカーはすべてクラーク。彼が蹴るほうのゴール裏には、地元観客で埋め尽くされたスタンドがある。反対側のゴール裏にいる日本人記者にとっては、あまり歓迎したくない風景だ。3本目までは安部の好守もあって事なきを得たが、4本目は誰にも止められないキックだった。左上の隅ギリギリに鋭いシュートが突き刺さる。2-0。日本は1本目を佐々木、2本目以降を落合が蹴ったが、キックのパンチ力も精度もクラークにはかなわなかった。
日本がもっともゴールに近づいたのは、日本の3本目となる第2PKだった。落合のシュートが右ポストを叩き、跳ね返ったボールを佐々木が拾う。混戦の中で、佐々木と加藤が連続シュート。が、どうしても入ってくれない。地団駄を踏んで悔しがっていたら、私の隣で撮影していた現地カメラマンがモニターを見せてくれた。落合のキックがポストに当たった瞬間をとらえたものだった。それも、ややポストの内側に当たっている。GKの手はまったく届いていない。悔しさが倍増した。
アウェイでの敗戦は、初めてではない。2007年のアジア選手権でも、北京パラリンピック出場を懸けた試合で、日本は地元韓国に敗れている。しかしあのとき、仁川の体育館に観客はまばらだった。ヘレフォードのピッチでタイムアップを告げるブザーが鳴った瞬間、私は「アウェイで負けるとはこういうことか」と肌で実感させられた。総立ちになって雄叫びを上げるスタンドの人々が、ほんとうに憎らしかった。
だが、それも日本の選手たちにとってはかけがえのない経験になったことだろう。昨夜も北岡さんと話したのだが、4年前の日本は地元アルゼンチンと別グループに入ったため、最初から最後まで閑散とした競技場で戦った。地元観客が鈴なりになるアルゼンチンの試合を見て、「こんな雰囲気の中でサッカーをやらせてあげたい」と強く思ったものだ。このイングランド戦では、イングランド選手にイエローカードを出した審判に対する大ブーイングも聞けた。これもまた、ブラインドサッカーが「サッカー」に近づくひとつの形ではある。
大会4日目を終えて、グループAの勝ち点は、スペイン9、イングランド6(以上3試合消化、以下は2試合消化)、日本1、コロンビア1、韓国0。計算が苦手なので、今後の展開についてはとやかく言わない。日本がすべきことは、残り2試合を勝つことのみ。選手たちは、ここから持ち前の逞しさを見せてくれるはずだ。そもそも私は、彼らの逞しさに惚れたからこそ、こうして地の果てみたいな場所まで追いかけるのである。
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岡田仁志の世界選手権従軍レポートその4 もぜひご覧下さい。
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