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岡田仁志 世界選手権従軍レポート その3

 

ブラサカJAPAN、10年目の本気。
in The 5th IBSA World Blind Football Championship 2010
文と写真/岡田仁志


現地時間 2010年8月16日(月)11時00分

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選手整列

この連続レポートのタイトルを「Come Rain or Come Shine」にしなくてよかった……と思うような大会2日目であった。午前中、ビデオカメラマンの北岡宏一さん(長年の取材仲間)は商店街でカッパを買い、ウエハラ君は通信機器を守るカバーを買ったが、それがまったく無用となった暖かい1日。この季節に「暖かい」というのもおかしな話だが、ともあれ日本チームが初戦を良いコンディションで迎えられたのは幸いであった。

◇第1試合 日本 0-0 コロンビア
初戦スタート時のフォーメーションは、1-2-1か、2-1-1-か――。風祭監督がどちらを選ぶかが、最初の注目点だった。日本チームの基本システムは、「3人で攻める」を前提とした1-2-1である。「3人で守る」の2-1-1は、アタッカー陣を休ませたり、試合のペースを変えたりするためのオプションとして、最近になって導入されたものだ。まずは自分たちのサッカーをやるなら1-2-1、まったく情報のないコロンビアの様子を見るなら2-1-1。どちらもあり得たが、チームは最終的に前者を選んだ。「オレたちのやり方が世界に通用するかどうか試したい」――そんな意気込みが伝わってくるような選択である。

そして、それは通用した。佐々木、黒田、加藤、田中の4人が、大柄なコロンビア選手たちと互角に渡り合う。しっかりとボールをキープした佐々木が敵陣深くに攻め込み、右45度から最初のシュートを放ったときに、私は自分がここに何を見に来たのかを思い出した。この4年間で、日本はどこまで成長し、どこまで「世界」に接近したのか。それを見届けるために、私はヘレフォードまで足を運んだ。4年前の初戦、日本は南米第3代表のパラグアイ相手に何もさせてもらえず、0-3で完敗している。同じ南米代表のコロンビア戦は、その雪辱を果たすチャンスだ。私の見るかぎり、コロンビアの選手たちは4年前のパラグアイと同等かそれ以上の力量を持っている。選手たちには「その程度のことで」と怒られるかもしれないが、むしろ日本のほうが長くボールを支配し、押し気味に進めた序盤戦を見ながら、私は少々、涙腺がゆるんでしまいました。日本は立派になったよ本当に。

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佐々木選手のドリブル

だが、泣いている場合ではない。前半9分に田中が相手選手の背中に伸ばした「かばい手」がプッシングの反則を取られたときには、「それがファウルかよ!」とゴール裏から怒声を発していた。なにしろ、それが日本にとって前半3つめのファウルだったのだ。4つめからは相手に第2PKが与えられる。この時間帯で3つは早すぎた。

前半20分、黒田に代えて山口を投入したところから、日本はシステムを2-1-1に変更した。こうして試合の流れをコントロールできるのは、日本が自分たちのペースで戦えている証拠である。加藤と交代した落合が敵陣でじっくり時間を使ってボールをキープするなど、日本は「予定どおり」のプレーを見せた。

だが、緊張を強いられるゲームに途中出場する選手は入り方が難しい。見えないだけに、審判の判定基準もすぐにはわからない。佐々木に代わって入った三原が、ハーフタイムまで2分を切ったところでファウル。相手と交錯したのはたしかだが、私の目には、笛を吹かない審判のほうが多いプレーに見えた。コロンビアの第2PK。前半終了間際の失点はダメージが大きい。日本は、イヤな空気を振り払うために、ここでタイムアウトを取った。ベンチの落ち着いた判断が頼もしい。GK佐藤が大きく息を吐きながら、屈伸運動などをして、PKに備える。

試合再開。コロンビアの5番メンドーサがゴール前8メートルの地点にボールを置く。笛が鳴り、右足が強く振られた。ジャストミートされた強烈なボールが、ゴール右の枠をとらえる。佐藤の左手。「うおっしゃー!」と叫びながらシャッターを切る私。アニマルな反射神経がチームを救った瞬間だった。前半は0-0。

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佐藤選手のビッグセーブ!!

後半は激しい撃ち合いとなった。黒田の高速カウンター、佐々木のしつこいドリブルからのシュートなど、日本は再三にわたってコロンビアのGKを脅かす。しかしコロンビアも、前半はおとなしくしていた9番パブロ(南米選手権の得点王)が力強いドリブルで日本守備陣を切り裂き、重量級のシュートを放つ。とくに後半18分に中央から撃たれたシュートは、正直「やられた」と思った。スーパーセーブを見せたGK佐藤には、今からでも抱きつきに行きたいぐらいだ。

この試合で最後の決定機は日本だった。残り44秒で得た右コーナーキック。コーラー魚住の指示どおり、コーナーから後方で待つ落合にフェンス沿いのバックパス。これを落合が逆サイドの加藤へ正確に展開。練習で何度もやってきたパターンだ。そして加藤のシュート。右足で完璧にとらえたボールは、しかし惜しくも枠を逸れた。タイムアップ。0-0というスコアは、お互いの実力を正しく反映した結果と言えるだろう。前回のレポートでも書いたが、この初戦は勝ち点を取ることが大事。おそらく首位争いの相手となるであろうコロンビアから2つの勝ち点を奪い、自ら1つの勝ち点を積み上げたのは、上々のスタートである。サッカーファンには、2002年日韓ワールドカップにおけるベルギー戦と同じ重みが、この引き分けにあると思ってもらえばいいだろう。何より、選手たちもベンチも自分たちのやるべきことを落ち着いてやりきったことが大きい。マン・オブ・ザ・マッチを選ぶとしたら、GK佐藤に一票を投じたいと思います。

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加藤選手の強烈なシュート!

◇第2試合 アルゼンチン 0-1 フランス
前回チャンピオンに、やや失望させられた一戦。2人のエース、5番ヴェロと8番ロドリゲスに4年前ほどの切れ味がない。ちょっとどうかと思うくらいのメタボ腹がゆさゆさと揺れている選手が2人ほどいる。優勝したチームが放っていた魅力的なオーラが、私にはまるで感じられなかった。それでも基本的にはアルゼンチンが押していたのだが、フランスも昨年の欧州選手権優勝はダテではない。4年前よりもテクニックが向上し、力強くなっていた。とくに元気だったのが、前回大会の日本戦で先制ゴールを決めた10番フレデリック・ヴィレルー(Frederic Villeroux=発音よくわかりません)だ。キャプテンとして攻守に獅子奮迅の活躍を見せていた。タイムアップ33秒前に劇的な決勝ゴールを決めたのも、このキャプテン。4年前にはできなかったはずの器用なドリブルでゴール前に切り込み、豪快に叩き込んだ一発だった。

ちなみに井口主審のファインプレー(?)は、ヴェロの「ハンド」で笛を吹いたこと。故意のハンドはなかなかできない競技なので、これはかなり珍しい。井口さん自身も「ちょっと迷いました」とのこと。しかしアルゼンチンベンチからもクレームはつかなかったので、誰もが納得する好ジャッジだったと思います。

◇第3試合 ブラジル 2-0 中国
北京パラリンピックの1次リーグでは1-1、決勝は2-1でブラジル。地元パラで悔しい思いをした中国が、どんな新手でブラジルに挑むかを私は楽しみにしていた。しかし、新しいことをやってきたのは、むしろブラジルのほう。立ち上がり早々、単騎ドリブルで攻め込んだ中国の10番をブラジルが4人で包囲したときは、目を疑った。「4枚ディフェンス」は中国の専売特許だったからだ。ボールを奪ったリカルドが、味方のいない敵陣に向かってクリアする。「そんなに中国が怖いのかブラジル」――と、そのときは思った。4枚ディフェンスは立ち上がりだけだったが、本来なら2枚のアタッカーを前線の両サイドに残し、2枚のDFをタテに並べて守るブラジルが、常に3枚を自陣に残し、攻撃はほぼリカルドに任せきり。そのリカルドも、中国の4枚ディフェンスを引きはがすことができない。

しかし、この守備態勢が有効だった。ヨコに並んだ中盤のひとりがドリブラーをチェイスし、追い込んだ方向で待つもうひとりのMFがボールを奪う。高い位置からのプレスは中国選手を慌てさせ、ミスを誘った。中国の選手がこれほどドリブル中にボールをこぼす試合を、私はこれまで見たことがない。

そしてブラジルは、攻撃のほうでも驚異的な新兵器を用意していた。リカルドとの交代で投入された、7番のジェファーソン・ゴンカウヴェス(Jeferson Goncalves)。まさか、リカルドを超える盲目ドリブラーが地球上に存在するとは思わなかった。すばらしいスピードで左右にビュンビュン走り回り、中国の守備網を翻弄。それはもう、見る者をポカーンとさせるほどである。前半19分に右足のアウトサイドで器用に蹴ったシュートがポストを叩くと、その1分後には角度の浅い位置から左足でシュート。これがゴールネットを揺らし、ブラジルが1-0で前半を折り返した。

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ブラジルの7番 ジェファーソン・ゴンカウヴェス

さらに後半5分、リカルドが倒されてブラジルがPKを得る。キッカーは、蹴り足を後方に高々と上げてノーステップで蹴る「フラミンゴキック」で有名な11番セヴェリーニョ・シウバ。以前ほど上げ方が高くなくなったが、超高速シュートがゴールに突き刺さって2-0。中国は決定機らしい決定機をあまり作ることができず、終盤に得た2本の第2PKも失敗に終わった。ブラジルの完勝。サッカー王国の底知れぬ力を存分に見せつけた一戦でありました。Ustream配信で多くの方がご覧になったようだが、これがブラインドサッカーの現時点での到達点です。

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岡田仁志 世界選手権従軍レポート その2 もぜひご覧下さい。

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