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岡田仁志 世界選手権従軍レポート その4

 

ブラサカJAPAN、10年目の本気。
in The 5th IBSA World Blind Football Championship 2010
文と写真/岡田仁志


現地時間 2010年8月17日(火)11時30分

東京は暑さがぶり返しているとのことだが、こちらは涼しい。この2日間は雨が降らないが、晴れていても、夕方になるとヤッケを羽織っている。だが、取材現場はアツい。各国の取材陣の中でもとりわけアツいのが、Ustream配信をひとりで担うウエハラ君だ。次々と襲いかかるアクシデントにも、めげず・腐らず・投げ出さずで戦っている。雨でパソコンが1台故障したため、大会3日目からは、私が今これを書いているMacBookのバッテリーも徴用された。私がたまたまウエハラ君と同じ機種を持っていたのは、天の配剤としか言いようがない。近畿日本ツーリストのマスダさんも、バッテリーを探しにヘレフォードをかけずり回り、「ありませんでした……」と肩を落として帰ってきたりしている。ピッチ外でも、日本は総力戦を展開中だ。みんなで一緒にがんばるんだぞー! といった次第なので、ほんのちょっとでいいですから、こっちも応援してください。

◇第1試合 スペイン 2-0 コロンビア
双方の初戦を見た段階では「コロンビアのほうが上」と感じたのだが、この試合ではスペインの動きの良さばかりが目立った。連戦のコロンビアに対して、1日の休みがあったことが、アドバンテージになったのかもしれない。あるいは、初日のスペインがダメだったのは雨のせいだろうか。

スペインの2ゴールは、いずれも7番のアントニオ・マルティン。前半9分の先制点は、10番のチャッピィが起点だった。センターラインから少し敵陣に入った右サイドから、逆サイドのペナルティエリアに、浮き球でフィード。ボールの音は消えたはずだが、チャッピィが蹴った瞬間、マルティンはその落下地点に向かって猛ダッシュしていた。トラップでモタつき、最初のシュートはGKに弾かれたものの、こぼれ球を押し込んで1-0。後半24分の2点目は、CKからドリブルでゴールライン方向に持ち込み、角度のない地点から右足でゴール天井に突き刺したものだった。これでスペインは勝ち点6。初戦の後半24分52秒までは考えられなかった快進撃になっている。
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右端がチャッピィ、審判は井口さん

◇第2試合 ブラジル 1-0 フランス
ブラジルは、リカルドとジェファーソンの2トップでスタート。前線の2人がサイドチェンジをしながら敵DFを揺さぶる、本来の1-1-2に戻してきた。やはり「3人守備」は対中国専用オプションだったようだ。しかし2トップになると、ジェファーソンの凄まじいドリブルがあまり見られない。ボールを持っても、すぐに逆サイドのリカルドにパスしてしまう。先輩に遠慮しているようにも見えた。実際、ジェファーソンのゴールは、リカルドがジョアン・シウバと交代した後のこと。リカルドが「先輩」なら、アテネパラ得点王のシウバは「大先輩」になるわけだが、こちらはかなり切れ味が落ちているので、ボールを回すとチームのためにならない。ともかく前半13分、フランスDFのクリアミスを拾うやいなや猛然とドリブルで突進したジェファーソンが、右足でGKの股間を抜くファインゴールを決めたのだった。

一方のリカルド先輩は、試合中、何度も何度も敵ゴールに迫るものの、撃っても撃っても入らない。ちょうど、南アフリカW杯におけるメッシ(アルゼンチン)みたいな雰囲気になっている。いちばん惜しかったのは、前半終了間際のプレーだ。CKからフェンス沿いにヒールでバックパスをしたリカルドが、逆サイドに移動。ボールを受けたジェファーソンが(ちょうど前の試合でスペインのチャッピィが出したのと同じような場所に)ループでパスを出す。さすがに、リカルドはマルティンとは違った。2バウンドしたボールを、ダイレクトのハーフボレーでジャストミートしたのである。思わず「ウッソだろ~」と叫んじゃいました。シュートはGKの正面を突いたが、この世のものとは思えぬファンタスティックなプレー。入ったら永遠に語り継がれる伝説になったのは間違いないので、残念である。あと、この日のブラジルで驚いたのは、8番センドロ・ソアレスがGKにバックパスをしたこと。目が見えていたって、それなりにリスクのあるプレーである。隣で見ていた日本のGK安部も「アキさん(DFの田中)にアレやられたら怖いッス」と目を丸くしていた。

ところで、リカルドが無得点に終わり、最小得点差での決着となったのは、フランス守備陣の奮闘によるものだ。とくに10番ヴィレルーのボール奪取能力は、ブラジルの11番セヴェリーニョ・シウバと双璧である。一見やや荒っぽいタックルのようだが、出した足はきっちりとボールに伸びている。実にサッカーらしいスリルと激しさを感じさせてくれる選手で、私は彼のことが大好きだ。攻撃でも何度かビッグチャンスを作っていた。キャプテンとしては、南アフリカW杯におけるフォルラン(ウルグアイ)のような存在感。私の中では、フランスの好感度が赤丸急上昇中である。
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リカルドを懸命に止めるフランス守備陣。右がヴェレルー。

◇第3試合 アルゼンチン 3-0 ギリシャ
大会直前にカメルーンの棄権を受けて急遽出場の決まったギリシャが初登場。見たことがなかったので、どんなチームだろうと楽しみにしていたのだが、それはもう驚くべきチームだった。メンバー表に年齢が書いていないのでわからないのだが、おそらく平均年齢は40歳前後ではあるまいか。おなかや頭頂部などにやたら貫禄のある選手が多い。フィールドプレーヤー8人のうち3人は、明らかに日本の葭原滋男(47歳。今大会は不参加)よりも年上だと思われる。あの貫禄からすると、それぞれの職場ではかなりの要職に就いているように見えるのだが、よくぞ急な招集に応じられたものだ。バカンス返上で来たのだろうか。あるいは、来られる選手が彼らしかいなかったのだろうか。

とにかくスタミナがないので、ギリシャはやたらとメンバーチェンジが多い。試合の9割は守備に追われるので、フレッシュな選手はDFを担当し、疲れた選手は前線で休むというローテーション体制。走れないどころか、ボールをトラップするたびにつまづいて転ぶおじさんもいる。この試合の第3審判(選手交代などを担当)を務めた井口さんによれば、交代で入る選手を呼びに行くと「またオレ出んの?」という顔でウンザリしていたらしい。そりゃあ、いささか衰えの感じられるヴェロでも、ハットトリックできますわなぁ。ギリシャは「えーい、めんどくせぇ」というヤケクソなファウルも多く、この試合でアルゼンチンが得た第2PKは7本(すべて失敗)。せっかく参加してくれたギリシャが、大会途中で棄権しないことを祈りたい気分である。がんばれギリシャ(国のほうもいろいろ大変だし)!
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ヴェロを必死で追いかけるトカトリディスさん(中央)

◇第4試合 イングランド 2-1 韓国
4年前の大会でも対戦し、とくに見るべきところのないスコアレスドローに終わったカードである。あのときと比べると、どちらも本当に上手くなった。当時は双方ともボールを前に蹴飛ばして走り込むばかりで、「キック・アンド・ラッシュ」といえば聞こえはいいが、強豪国とはまったく次元の違うサッカーをやっていたものだ。しかし今はどちらも巧みなドリブルを見せ、偶然に頼らないプレーをしている。フランスがアルゼンチンを下したことも含めて、この4年間で、ブラインドサッカー界の上位と下位の差が急速に縮まったというのが、現時点での今大会の感想である。

とはいえ前半は、ゴールの決まる予感のしない展開だった。韓国は7番の小兵You Cheol Shinや4番のYeong JunJangが中国選手並みのすばらしいドリブルテクニックを見せるが、ただグルグルと動いているだけで、なかなかゴールに近づかない。イングランドの7番クラークも、ゴールには迫るものの最後にボールをこぼすシーンが目立った。

ところが後半の立ち上がりから、イングランドが猛ラッシュ。キックオフ直後にクラークがパワフルな中央突破で惜しいシュートを放つと、火がついたようにアグレッシブな攻撃を始めた。ゴール裏を埋めた地元観客が盛り上がり、場内アナウンスが静粛を求める。そして後半3分。5番のロビン・ウィリアムス(!)が韓国ゴール前で4人に包囲され、密集からボールがこぼれる。そこへ果敢に走り込んだのは、9番のジョナサン・グリビンだった。観客を熱狂させるには十分すぎるほど豪快なシュートが、ゴールに突き刺さる。ホスト国が初戦でひどい負け方をしただけに、大会を盛り上げる上でも貴重なゴールだった。

しかし後半17分、楽勝ムードに浸っていた観客を茫然とさせるゴールが生まれる。韓国のゴールスローがピッチ中央をコロコロと転がり、あまり音がしなかったのか、イングランド守備陣の足元をスルスルとすり抜ける。イングランドGKの目の前に突っ立っていたのは、7番のYou Cheol Shinだった。ふつうのサッカーなら、完全なオフサイド・ポジション。その足元に、勝手にボールが収まってくれたのだから幸運な話だ。振り向いて、右足を振るだけ。あれほど高度なドリブル技術を持っているのに、こんな形でゴールが決まるのだから、サッカーって面白い。残り8分で、1-1の同点。

だが韓国はファウルも多かった。後半13分には、14番Kyung Ho Kimが5ファウルで退場。同点になるまでに、イングランドは2本の第2PKを得ていた。これは9番グリビンが外したが、残り5分で得た3本目は、大エースのクラークがポイントに立つ。満場の観客が固唾を呑んで見守る中、クラークの振った左足は見事にボールの真ん中をとらえ、ゴール右下の隅に送り込んだのだった。「Yes !!」と絶叫しながら立ち上がる観客。プレミアリーグと見紛うような風景だった。

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先制点を決めた9番ジョナサン・グリビン

これでグループAの勝ち点は、スペイン6、イングランド3、コロンビア1(ここまでは2試合消化)、日本1、韓国0。日本は今夜のイングランド戦、絶対に負けられない。ヘレフォードの空は朝から暗い雲が垂れ込めており、ときおり雨も落ちている。しかし何が降ってこようと、天気は相手と同じ条件だ。それに、こちらは1日の休養をはさんでいる。われらが日本チームが持てる力を存分に発揮して暴れ回り、地元観客を黙らせてくれるのを、楽しみに待とうじゃないか諸君。

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岡田仁志 世界選手権従軍レポート その3 もぜひご覧下さい。

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8月19日(木)はグループリーグ最終戦の対韓国。岡田氏も登場する、パブリックビューイングとトークイベントで盛り上がろう!

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